「Geminiは小説が下手」は、半分だけ正しいです
「Gemini 小説 下手」で検索すると、同じような話がいくつも出てきます。
- 文章が薄い
- 描写が物足りない
- 読んでいて面白くない
そしてその根拠として、ほぼ必ず引用される検証結果があります。
週刊アスキーが3つのAIに同条件で小説を書かせた検証で、Geminiは3つのAI同士による相互評価で30〜41点、不合格という判定を受けました。指定文字数に対して約43%の不足、内容も「薄い」と評価されています。
同条件でChatGPTは92〜95点、Claudeは80〜86点。数字だけ見れば、惨敗です。
ただし、この話には続きがあります。
出回っているのは総合点だけで、内訳が見られていません。 実際に項目別で採点してみると、まったく違う景色が見えてきます。
実際に採点してみました
当サイトで、ChatGPTとGeminiに完全に同じプロンプトを投げて、5項目×20点で採点しました。
| 評価項目 | Gemini | ChatGPT |
|---|---|---|
| 文章力・描写 | 17 | 8 |
| 構成の完成度 | 9 | 18 |
| 指示の遵守 | 18 | 7 |
| 形式の正確さ | 10 | 19 |
| 商用利用の安全性 | 7 | 18 |
文章力・描写の項目で、Geminiが17点、ChatGPTが8点です。
2倍以上の差でGeminiが勝っています。
つまり「Geminiは文章が下手」という評価は、少なくとも描写に関しては当たっていません。
証拠:Geminiが実際に書いた一文
採点の根拠を見てください。深夜のオフィスを描写した冒頭部分です。
静まり返ったオフィスフロアには、天井の空調がかすかに唸る音と、キーボードを叩く乾いた音だけが響いている
これは、かなり上手い文章です。 理由を分解します。
①音だけで空間を作っています 「静かなオフィス」と書くのは簡単です。しかしこの文は、実際にその場にある音を2つ選んで静けさを表現しています。「空調の唸り」と「キーボードの乾いた音」どちらも深夜のオフィスに確実に存在する音です。
②形容詞に頼っていません 「乾いた音」という一語で、キーボードの質感まで伝わります。「静かな」「寂しい」といった説明語を使わずに、情景を立ち上げています。
続く一文も同様です。
目の奥の重みに耐えながらマウスを動かしていた
疲労を「疲れていた」と説明せず、身体感覚として置いています。 これは意識して書かないとできません。
そしてChatGPT側の出力には、この種の文章が一行もありませんでした。 ほぼ全てがセリフで構成されていたためです。
では、なぜ「下手」に見えるのか
描写が上手いのに、全体としては下手に見える。この矛盾の答えが、残りの項目にあります。
構成9点、形式10点。ここが落ちています。
原因を5つに分けて説明します。
原因①:終わり方が唐突です
最も強く「下手」の印象を与えているのがこれです。
Geminiの出力は、物語が場面の途中で終わります。余韻も、後日談も、感情の決着もありません。
今回の検証でも、一番濃い場面を書き切ったところで、そのまま文章が止まりました。
一方ChatGPT版は、翌朝のオフィスまで描いて締めています。同じ題材でも、読後感がまるで違います。
人は、最後に読んだ部分で全体を評価します。 どれだけ途中の描写が良くても、終わり方が雑だと「下手」という印象が残ります。
これは**「短編小説」ではなく「シーンの切り出し」を書いている**状態です。
原因②:形式が崩れます
地味ですが、読者の体感に直結する部分です。
今回の検証では、異なる話者のセリフが同じ行に連結している箇所が複数ありました。
週刊アスキーの検証でも、Geminiについて「行頭のスペースがない」など形式の不揃いが指摘されています。今回も同じ欠陥が再現された形です。
形式の乱れは、内容と関係なく「素人っぽさ」を生みます。 文章そのものは上手くても、見た目が崩れていると全体が安っぽく見えてしまいます。
商品として出すなら、全文の形式チェックが必須です。
原因③:長い指定になると、文字数が届きません
ここは誤解されやすいので、正確に書きます。
短い指定(数百〜千文字程度)なら、Geminiはきちんと守ります。 今回の検証でも、指定範囲内に収まっていました。
問題は長編です。 先ほどの検証では、指定に対して約43%不足しました。ChatGPTが86,114文字、Claudeが119,772文字を出力したのに対し、Geminiは37,388文字です。
「一気に長く書かせようとすると、途中で止まる」というのがGeminiの性質です。そして足りない分を「薄い」と評価されます。
原因④:同じ言い回しを繰り返します
これも今回の出力で確認できました。
- 「背徳感」が、短い文章の中で2回使われています
- 「囁く」という動作も、繰り返し登場します
1,000文字程度の中で同じ語が複数回出てくると、読者は確実に気づきます。 そして一度気づくと、最後まで気になり続けます。
語彙が少ないわけではありません。直前に自分が使った表現を参照して、同じものを選んでしまうという性質によるものです。
原因⑤:長く書かせるほど、設定が崩れていきます
最後は、使い方に関わる原因です。
会話が長くなるほど、最初に出した指示は効かなくなります。
チャットでは毎ターン、それまでの会話履歴がまとめて再送されています。ここで問題になるのが、モデルが長い文脈を均等に読めていないという性質です。
2023年の「Lost in the Middle」という研究では、情報をコンテキストの先頭から末尾まで移動させて精度を測ると、両端で高く中央で落ち込むU字型になることが示されました。中央では絶対値で20ポイント以上低下するケースが多いと報告されています。
これを長編執筆に当てはめると、こうなります。
- 先頭 — 最初の挨拶や雑談
- 中央 — 世界観・キャラクター設定・文体の指示
- 末尾 — 直近のやりとり
最も重要な指示が、最も読まれにくい位置に沈んでいきます。
「後半になると別人みたいな文章になる」という体感は、これが原因です。Geminiが下手なのではなく、指示が届かなくなっている状態です。
共通しているのは「仕上げ」の問題です
5つの原因を並べると、はっきりした傾向が見えます。
| 原因 | 分類 |
|---|---|
| ①終わり方が唐突 | 仕上げ |
| ②形式が崩れる | 仕上げ |
| ③長文で文字数不足 | 工程 |
| ④同じ言い回しの反復 | 仕上げ |
| ⑤長い会話で設定が崩れる | 工程 |
文章力そのものの問題は、ひとつも入っていません。
料理に例えるなら、素材は良いのに盛り付けで落としている状態です。味見もせずに皿に乗せているので、出てきたものが雑に見える。
「下手」ではなく「荒い」というのが、正確な表現だと思います。
直せるもの、直せないもの
実務的な整理をします。
| 原因 | 直せるか | 方法 |
|---|---|---|
| ①終わり方 | 直せます | 「この後どうなったかを書いて」と追加指示する |
| ②形式 | 直せます | 出力後に全文チェック。機械的に処理できます |
| ③文字数不足 | 直せます | 場面ごとに分けて書かせる |
| ④反復表現 | 直せます | 別のチャットで「重複表現を指摘して」と依頼する |
| ⑤設定の崩れ | 直せます | 数往復ごとに設定を貼り直す |
5つとも直せます。
逆に言えば、何もしなければ5つとも出ます。「Geminiは下手」と言っている人の多くは、一発で書かせた出力をそのまま評価しています。
つまり、評価の順序が逆でした
まとめると、こういう構図です。
× Geminiは文章が下手だから、良い小説が書けない ○ Geminiは描写が上手いのに、仕上げが荒いから下手に見える
この違いは重要です。 前者なら他のAIに乗り換えるしかありませんが、後者なら工程を変えるだけで解決します。
そして実際、描写の質という最も真似しにくい部分で、GeminiはChatGPTを上回っています。ここは乗り換えても手に入りません。
具体的にどう書かせるか
原因が分かったので、あとは工程の話です。
要点だけ挙げておきます。
- いきなり本文を書かせない — 設定とプロットを先に作らせて、自分で確定させる
- 場面ごとに区切る — 文字数不足と設定の崩れが同時に解決します
- 設定を定期的に貼り直す — 中央に沈んだ指示を末尾に戻します
- 推敲は別のチャットで — 書いた履歴が残っていると、評価が甘くなります
詳しい手順は当サイトの別記事で解説していますので、そちらを参照してください。
さらに踏み込んで、どう指示を書くかという部分については、実際に使っている指示文を1冊にまとめています。
『Geminiで官能小説を書く方法完全版』(2,980円)
タイトルは官能小説となっていますが、販売ページに記載しているとおり、全年齢の小説にもそのまま使える内容です。
まとめ
- 「Geminiは小説が下手」という評価は、総合点だけが流通して内訳が見られていません
- 実際に採点すると、文章力・描写で17点。ChatGPT(8点)を2倍以上上回りました
- 「天井の空調がかすかに唸る音と、キーボードを叩く乾いた音」——音だけで空間を作る文章が書けています
- 落ちているのは構成9点・形式10点。つまり仕上げの部分です
- 原因①終わり方が唐突 — 読後感が全体の評価を決めます
- 原因②形式が崩れる — セリフの行が連結し、素人っぽく見えます
- 原因③長い指定だと文字数が届かない — 短い指定なら守ります
- 原因④同じ言い回しの反復 — 1,000文字の中で「背徳感」が2回出ていました
- 原因⑤長い会話で設定が崩れる — 指示が文脈の中央に沈むためです
- 5つとも直せます。 文章力の問題はひとつも含まれていません
- 正確には「下手」ではなく**「荒い」**。素材は良いのに、仕上げで落としている状態です
仕様は頻繁に変更されます。この記事は2026年10月時点の検証結果ですので、最新の挙動はご自身でもお確かめください。


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