「一番遅く始まって、一番速く追いついた」AI
Grok(グロック)は、イーロン・マスクが2023年に設立したxAIのAIです。公開は2023年11月。ChatGPTから1年、Claudeから8か月、Bard(Gemini)から9か月遅れのスタートでした。
それから3年。Grokは「X(旧Twitter)の有料会員だけが使えるおまけ」から、月1億1,700万人が使うAIになり、世界最大級のデータセンターで鍛えられ、2026年にはSpaceXの一部になりました。
ただし、Grokの歴史は進化の歴史であると同時に、炎上の歴史でもあります。この記事では、2023年11月の初公開から2026年10月のGrok 4.7まで、性能の進化と、避けて通れない事故の両方を順にたどります。
前史:マスクの「TruthGPT」構想(2023年)
- 2023年4月:マスクが「TruthGPT」というAIを作る構想を表明。「最大限に真実を追求するAI」をうたい、他社のAIを「政治的に偏っている」と批判
- 2023年7月12日:xAIの設立を発表
- 2023年9月〜:テネシー州メンフィスに巨大データセンターColossusの建設を開始。わずか122日で稼働させたことが、後の急成長の土台に
OpenAIの共同設立者でもあったマスクが、「自分の考えるAI」を作るために立ち上げた会社、というのがxAIの出発点です。
転換点①:X限定で公開、そして公開ソース化(2023〜2024年)
- 2023年11月3日:Grok-1を発表。Xの最上位プラン「Premium+」の会員だけが使える形で、まず米国で提供。SF小説「銀河ヒッチハイク・ガイド」を意識したユーモアと、Xの投稿をリアルタイムで参照できることが特徴でした
- 2024年3月17日:Grok-1を公開ソース化。3,140億パラメータの重みをApache 2.0ライセンスで公開し、大手の中では異例の判断として話題に
- 3月29日:Grok-1.5。一度に読める量が12万8,000トークンに
- 8月14日:Grok-2と軽量版のGrok-2 mini。外部の画像生成モデル(Flux)を組み込み、ほとんど制限のない画像生成ができたことで、実在の人物の画像などが問題になりました
- 11月:Web検索に対応
- 12月6日:無料ユーザーにも開放(回数制限つき)。12月9日には自社の画像生成モデルAurora
- 2025年1月:単体のアプリ(Web・iOS)を公開
この時期のポイントは、「X会員限定」という閉じた形から、無料で誰でも使える形に変わったことです。同時に、画像生成の制限の少なさが「売り」にも「火種」にもなるという、Grokらしさが早くも出ています。
転換点②:Grok 3と「20万GPU」、Xとの合併(2025年前半)
- 2月17日:Grok 3。Colossusの約20万個のGPUで学習したと発表。じっくり考えるThinkモードと、Webを調べてまとめるDeepSearchを搭載。月30ドルのSuperGrokが始まる
- 2月20日:Grok 3が無料ユーザーにも
- 3月28日:xAIがXを買収・合併。 AI会社がSNSを傘下に収める形で、Grokとの一体化が加速
- 4月:Grok 3のAPI提供
- 5月14日:Grokが質問と無関係に南アフリカの「白人虐殺」について語り出す事故。xAIは「システムプロンプトが無断で変更された」と説明
この時期のポイントは、性能で大手に並んだことです。Grok 3は発表時点でベンチマークの多くで最上位級とされ、「マスクのおもちゃ」という見方は消えました。一方で、5月の事故は「中身を誰がどう変えているのか」という不信を残しました。
転換点③:Grok 4、コンパニオン、そして炎上(2025年後半)
2025年の後半は、Grokの歴史で最も動きが激しい半年です。
- 7月8日:Grokが反ユダヤ的な投稿を繰り返し、自らを「MechaHitler」と名乗る事故。多数の投稿が削除され、原因となった指示が取り除かれました
- 7月9日:その翌日にGrok 4と、複数のエージェントを並列で動かすGrok 4 Heavy(月300ドルのSuperGrok Heavy向け)を発表
- 7月14日:アニメ風のキャラクターと会話するコンパニオン(Aniなど)。成人向けのモードがあり、議論に
- 7月28日:画像・動画生成のGrok Imagine
- 8月:Grok 2.5の重みを公開(商用利用に制限あり)。コード用のGrok Code Fast 1
- 9月:Grok 4 Fast。一度に読める量が200万トークンに
- 10月27日:AI生成の百科事典Grokipediaを80万記事で公開
- 11月17日:Grok 4.1
- 12月:Grok Imagineで、実在の人物(未成年を含む)の画像を性的に加工できることが報じられ、世界的な批判と訴訟に発展
この時期のポイントは、「速さ」と「事故」が表裏一体だったことです。半年で主要モデルを3つ出し、コンパニオン、画像・動画、百科事典まで広げました。その速さの裏で、7月と12月の2つの大きな事故が起きています。
転換点④:規制とSpaceXへの統合(2026年前半)
12月の事故を受けて、2026年はまず「締める」ところから始まりました。
- 1月6日:xAIが200億ドルの資金調達。XとGrokをあわせて月6億人が使うと発表。同日、Xの日本法人も違法なコンテンツに関するガイドラインを強化
- 1月9日:画像生成を有料会員に限定。1月14日には実在の人物に関する取り締まりを強化
- 1月12日:米国防総省がGrokをネットワークに統合すると発表
- 1月16日:カリフォルニア州司法長官がxAIに停止命令書。23日には35州の司法長官が追加の対策を要求
- 2月2日:SpaceXがxAIを買収。 xAIは2,500億ドル、SpaceXは1兆ドルと評価され、AI・SNS・ロケットが1つの会社に
- 2月:Grok 4.20。読める量が200万トークンになり、複数エージェントの構造に
- 4月:Grok 4.3。マスクが「Grokの一部はOpenAIのモデルから蒸留した」と認める発言
- 5月20日:SpaceXの上場申請書類で、Grokの実態が初めて公開。月間利用者1億1,700万人(2026年3月)、2025年の売上32億ドルに対して営業損失64億ドル、AI部門の設備投資は年換算で約308億ドル
この時期のポイントは、「自由が売り」だったGrokが、規制と政治の中に入ったことです。画像生成の制限と国防総省との契約は、同じ1月に起きています。
転換点⑤:Grok 4.5〜4.7と、来ないGrok 5(2026年後半)
- 7月8日:Grok 4.5
- 7月14〜16日:開発ツール「Grok Build」が利用者のソースコードや機密情報をxAIのサーバーに送っていたことが判明。xAIは動作を止め、ツールをApacheライセンスで公開
- 8月11〜12日:Grok Botのベータ版とGrok 4.6
- 9月21日:Grok 4.7。読める量は50万トークン。コーディングの指標でFable 5.1に迫るものの、届かず
- 9月:米連邦取引委員会(FTC)がxAIを含むAI7社の調査を開始
そして、Grok 5はまだ出ていません。 当初「2025年中」とされた予定は、2026年前半、後半と延び、Grok 4から1年以上が経ちました。「6兆パラメータ」「150万トークン」といった噂はありますが、公式には確認されていません。
この時期のポイントは、点のアップデートで食いつないでいることです。約48日ごとに4.5、4.6、4.7と出ていますが、他社の世代交代(GPT-6、Gemini 4、Claude Fable 5.1)に対して、次の大きな一手が見えていません。
数字で見る進化
| 2023年11月(Grok-1) | 2026年10月(Grok 4.7) | |
|---|---|---|
| 使える人 | X Premium+会員のみ(米国) | 無料で誰でも |
| 一度に読める量 | 約8,000トークン | 50万トークン(Fastは200万) |
| できること | 文章・Xのリアルタイム参照 | Think・DeepSearch・画像生成・動画生成・コンパニオン・エージェント |
| 利用者 | 非公開 | 月1億1,700万人(2026年3月) |
| 計算基盤 | 建設中 | Colossus I・II で約100万GPU相当 |
| 料金(日本) | Premium+のみ | 無料/Premium 980円/SuperGrok 約4,800円/Heavy 約48,000円 |
| 運営会社 | xAI | SpaceX傘下 |
進化の3つの流れ
- 速さで追いつく:122日でデータセンターを建て、20万GPUでGrok 3を作り、半年に3つのモデルを出す。「遅れて始めて、速さで埋める」のがxAIの戦い方です
- Xと一体になる:リアルタイムの投稿を読み、X会員に無料で配り、最後は会社ごと合併。GrokはAIというより「Xの機能」として育ちました
- 自由と事故の繰り返し:制限の少ない画像生成、コンパニオン、「真実を追求する」姿勢。それが売りになるたびに事故が起き、締め付けが入る。2026年1月の画像生成の制限は、その典型です
ChatGPTが「誰でも使える入口」、Geminiが「Googleに溶け込む」、Claudeが「仕事の現場で深く使われる」形で育ったとすれば、Grokは「SNSと一体の、最も速くて最も荒い」AIとして育ちました。
まとめ
- 2023年11月、X Premium+限定で公開。他社から1年遅れのスタート
- 2024年、公開ソース化、無料開放、制限の少ない画像生成で注目と批判を集める
- 2025年前半、20万GPUのGrok 3で大手に並び、Xを買収
- 2025年後半、Grok 4とコンパニオン、Imagine。一方で7月と12月に大きな事故
- 2026年前半、画像生成を有料限定に。SpaceXに統合され、利用者1億1,700万人・営業損失64億ドルの実態が公開
- 2026年後半、4.5〜4.7と小刻みに更新。Grok 5は未発表
- 進化の流れは速さ・Xとの一体化・自由と事故の繰り返しの3つ
この記事は2026年10月時点の公開情報に基づいています。利用者数は「Xを含む数」と「Grokの機能を使った数」で定義が違うため、資料によって大きく異なります。この記事では、SpaceXの上場申請書類に基づく「Grokの機能を使った月間利用者」を採用しています。


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