「出遅れたGoogle」が3年半で追いついた話
Geminiは、2023年2月に「Bard(バード)」という名前で発表されました。デビューは散々でした。発表直後のデモで答えを間違え、Googleの株価は1日で8%下がりました。
それから3年半。名前はGeminiに変わり、1度に100万トークンを読み、画像を作り、動画を作り、24時間動くエージェントまで持つようになりました。利用者は月7億5,000万人を超えています。
この記事では、Geminiの歴史をBard時代から2026年10月のGemini 4 Argonまで順にたどり、性能がどう進化し、何ができるようになったかを整理します。
前史:ChatGPTショックと「コードレッド」(2021〜2022年)
Googleは、対話AIの研究では先頭を走っていました。2021年には対話用の言語モデル「LaMDA」を発表しています。ただ、慎重な社風もあり、一般向けには出しませんでした。
状況を変えたのは、2022年11月30日のChatGPTの公開です。2か月で1億人が使うサービスになったのを見て、Googleは2022年12月、社内に「コードレッド」と呼ばれる厳戒態勢を敷きました。
Geminiの歴史は、「追いかける側」から始まっています。
転換点①:Bardの発表と失敗、そしてGemini 1.0(2023年)
- 2月6日:LaMDAを使った会話AIBardを発表
- 2月8日:パリでの発表イベントで、Bardがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡について誤った答えを出していたことが判明。株価が8%下落
- 3月21日:米国と英国で限定公開。Google自身が「Bardは自信満々に間違えることがある」と注意書き
- 4月18日:日本からもアクセスできるように
- 5月10日:Google I/Oで言語モデルをPaLM 2に切り替え。日本語に正式対応し、180以上の国と地域に展開
- 7月:40以上の言語に対応、音声読み上げ
- 12月6日:新しいモデルGemini 1.0を発表。Ultra・Pro・Nanoの3サイズで、文章・画像・音声・動画をまとめて扱う設計。Googleは「57科目の知識テスト(MMLU)で人間の専門家を初めて超えた」と発表しました
- 12月13日:BardにGemini Proを搭載
この年のポイントは、「急いで出して、急いで直した」ことです。発表時のBardは、ChatGPTより明らかに見劣りしました。それを半年ごとにモデルを入れ替えて追い上げ、年末のGemini 1.0で「GPT-4に並んだ」と言えるところまで来ました。
なお、Gemini 1.0のデモ動画は後に「リアルタイムの操作に見えるよう編集されていた」と指摘されています。急いだ分のほころびも、この年の特徴です。
転換点②:Geminiへの改名と「100万トークン」(2024年)
- 2月8日:BardがGeminiに改名。 有料プランGemini Advanced(Ultra 1.0を使える)と、スマホアプリが登場
- 2月15日:Gemini 1.5 Pro。一度に読める量が100万トークンに。本1冊や1時間の動画を丸ごと読める量で、当時のChatGPTの数十倍でした
- 2月下旬:画像生成で歴史上の人物の描写が不正確だと批判され、人物の画像生成を一時停止
- 5月14日:Google I/Oで、軽量版の1.5 Flash、声で会話するGemini Live、自分専用の設定を保存するGemsを発表
- 8月:Gemini LiveがPixel 9から提供開始
- 12月11日:Gemini 2.0 Flash。Web検索との統合、画像や音声を直接生成する機能、エージェント的な動作に対応。同時に、複数サイトを調べてレポートを作るDeep Researchも登場
この年のポイントは、「長い文脈」という独自の強みを手に入れたことです。性能で並ぶだけでなく、「大量の資料を一度に読ませる」用途ではGeminiが先行する形になりました。
転換点③:「考えるモデル」とNano Bananaの大ヒット(2025年)
2025年は、Geminiが「追いかける側」から「競り合う側」になった年です。
- 1月30日:2.0 Flashが標準モデルに。2月には2.0 Pro
- 3月25日:Gemini 2.5 Pro。Googleが初めて「考えるモデル」と位置づけたモデルで、人の好みで競うLMArenaの順位表で1位に
- 5月20日:Google I/Oで、Deep Think(より深く考えるモード)、月250ドルのGoogle AI Ultra、動画生成のVeo 3と動画ツールFlow、検索のAIモードを発表。カメラや画面を見せながら話すGemini Liveも全員に開放
- 6月:2.5が正式版に。コマンドラインで使うGemini CLIと、新しいロゴ
- 8月13日:履歴に残らない一時チャット
- 8月26日:画像生成モデルNano Banana(2.5 Flash Image)。人物の一貫性を保ったまま画像を編集できる性能が話題になり、数週間でGeminiアプリの新規ユーザーが1,000万人増え、2億回以上の画像編集が行われました
- 11月18日:Gemini 3 Pro。11月20日にはNano Banana Pro、12月にDeep Thinkの3版と3 Flash(標準モデルに)
利用者数もこの年に急増します。5月に月4億人だった利用者は、10月に6億5,000万人、年末から2026年初めには7億5,000万人を超えました。
この年のポイントは、Nano Bananaです。 性能の話ではなく「作った画像がSNSで広まる」という形で、Geminiが初めて一般の人に「使う理由」を与えました。
転換点④:動画、エージェント、そしてプラン別の線引き(2026年)
2026年は、できることが広がると同時に、無料と有料の線がはっきり引かれた年です。
- 2月19日:Gemini 3.1 Pro。2月26日にNano Banana 2
- 5月17日:使用量の上限が「回数」から「計算量」に。5時間ごとと週ごとの枠で管理する方式に変わる
- 5月19日:Google I/Oで、文章・画像・音声・動画をまとめて扱うGemini Omni(動画生成)、Gemini 3.5ファミリー、24時間動くエージェントGemini Sparkを発表
- 7月16日:Gemini Sparkが日本語に対応(Ultra向け)。7月29日からはProにも順次
- 7月21日:Gemini 3.6 Flash、3.5 Flash-Lite。一方で最上位の3.5 Proは延期
- 8月27日:動画生成のGemini Omni 1.1 Flash。最大40秒まで続けて生成
- 9月10日:Windowsアプリ
- 9月30日:Gemsがスキルに自動移行
この年の前半のポイントは、「文章のAI」から「動画も作れて、代わりに動くAI」への転換です。ChatGPTが2026年に動画生成(Sora)をやめたのと対照的に、Geminiは動画を強化しました。
転換点⑤:Gemini 4 Argonと無料版の制限(2026年秋)
- 9月末:次世代モデルGemini 4 Argonを発表。入力・思考・出力をあわせて約104万トークンの枠で扱い、1回の応答で最大100万トークンを出力できます
- 10月9日:無料版で使えるモデルがFlash-Liteのみに。AI PlusはFlashまで、Pro以上でProモデルとDeep Thinkが使える形に整理
- 10月13日:Gemini 4 ArgonがGoogle AI Pro・Ultra向けにGeminiアプリへ展開。同日、回答のしかた・スキル・40以上のアプリ連携を1か所で管理する「カスタマイズ」も
2026年秋のポイントは、「最新モデルは有料、無料は軽量版」という線引きが明確になったことです。2024年に無料でもGPT-4oが使えたChatGPTとは逆方向で、Geminiは「課金すべきか」の答えがはっきりしたと言えます。
数字で見る進化
| 2023年3月(Bard) | 2026年10月(Gemini) | |
|---|---|---|
| モデル | LaMDA | Gemini 4 Argon(Pro以上)/Flash-Lite(無料) |
| 一度に読める量 | 非公開(数千トークン程度) | 約104万トークン |
| できること | 文章の入出力 | 文章・画像生成・動画生成・音声会話・画面共有・Deep Research・エージェント |
| 日本語 | 非対応(5月から) | 対応。音声・エージェントも日本語 |
| 利用者 | 限定公開 | 月7億5,000万人超 |
| 料金 | 無料のみ | 無料/Plus 725円/Pro 2,900円/Ultra 14,500円〜 |
進化の3つの流れ
3年半を通して見ると、進化は3つの流れに整理できます。
- 追いつき、競り合う:Bardの失敗(2023年)→ Gemini 1.0でGPT-4に並ぶ → 2.5 Proで順位表の1位(2025年)
- 「量」を強みにする:100万トークンの文脈(2024年)→ 動画を丸ごと読む → 100万トークンを出力する(2026年)
- Googleの中に溶け込む:検索のAIモード、Workspace、Android、Chrome、そしてエージェントのSpark
ChatGPTが「単体のアプリ」として育ったのに対して、Geminiは「Googleのサービス全体に染み込む」形で育ちました。 検索、Gmail、スマホの中にすでにいる、というのがGeminiの最大の強みであり、歴史の方向性です。
まとめ
- 2023年2月、Bardとして発表。デモの誤りで株価8%下落という失敗から始まった
- 2023年12月、Gemini 1.0でGPT-4に並び、2024年2月にGeminiへ改名
- 2024年、1.5 Proで100万トークンという独自の強みを獲得
- 2025年、2.5 Proで「考えるモデル」に。Nano Bananaが大ヒットし、利用者は月7億5,000万人へ
- 2026年前半、動画生成のOmni、エージェントのSparkが登場
- 2026年秋、Gemini 4 Argon。同時に無料版はFlash-Liteのみという線引きへ
- 進化の流れは追いつく・量で勝つ・Googleに溶け込むの3つ
この記事は2026年10月時点の公開情報に基づいています。モデルの発表日と提供開始日は分かれていることが多く、資料によって数日〜数週間のずれがあります


コメント